文章作法
〜作文システムを身につけよう〜準備は70パーセント、実際に書くのは残り30パーセント。

何事にも、準備が必要ですね。書き出す前に、十分用意をしておけば、長い文章を書かねばならないときも、心配いりません。
第1章から第3章は「準備」、第4章が「書く」、第5章は「検討」となっています。

 

<はじめに-私のポジション>

『文章工学―表現の科学』 (1967年・三省堂新書・樺島 忠夫著)という名著が、今から50年あまり前に出版され、多くの人が文章に対する考えを新たにしました。文章を科学的に構築していく手法が示されています。
『考える技術・書く技術』 (1973年・講談社現代新書・板坂 元)では、客観的視点や思考の整理が記されていました。 
感情を述べ並べることが多かった文章作法から、論理的な作文のしくみを学びました。
また、学生時代は『大阪文学学校』に在籍し、文章作法を学びました。詩人の小野 十三郎氏が校長時に幾度かお話を聞く機会があり、先生は抒情(特に短歌・俳句の)を排除する論を主張され、おおいに学びました。
私の文章作法の原点は、このあたりにありそうです。

<以下の展開について>

文章作法を展開していきますが、ここに示した方法を実践した具体例を挙げています。
実例を確かめたい方は、項目ごとにご覧ください。不要の方は、飛ばしてください。

添付した実例は、新聞の広告に使用するために、注文を受けて書いたもので、課題は『楽器ヴィオラを科学する』です。ヴィオラの奏でる音は、どうして生まれ、音階を得るのか、また特徴を明らかにします。(2020年3月掲載)

私は、音楽や楽器は、全くの素人で無知です。どんな楽器もさわれません、歌も音痴です。科学者としての才能もありません。
学歴に理工学系は皆無、芸術大学出身で美術には強いと思っています。コピーライター・プランナーを職業として随分長くなります。全く音楽知識も楽器経験もない者が、どのように原稿を完成させるかをご覧ください。

■第1章 【スタート】
 ①書く目的を明確にします。
 ②何を書くかを明確にします。
 ③誰に対して書くか。
 ④総文字数を想定します。

■第2章 【収集】
 ⑤資料を集める。
 ⑥インターネットを使います。
 ⑦図書館・書店で探します。
 ⑧取材をします。

■第3章 【分類・組立】
 ⑨プリントを徹底的に読みます。
 ⑩資料を分類、並び替えます。
 ⑪文章構成法を応用しましょう。
 ⑫文字量を配分します。

■第4章 【書く】
 ⑬書く順番を決めます。
 ⑭1文あたりの字数。
 ⑮漢字、ひら仮名、送り仮名。
 ⑯単語の選び方。

■第5章 【確認】
 ⑰推敲しましょう。
 ⑱校正してもらいましょう。
 ⑲引用と著作権に注意しましょう。
 ⑳自分史を書く場合の注意。
  ※上手になるコツ・手紙を書こう。

■第6章 【私の書いたものからみてみましょう】
 (1)タイトル
 (2)前書き
 (3)本文
 (4)案内
  ※総文字数

 

■第1章 【スタート】

①書く目的を明確にします。

何のために書くのか? 
思い出を書き残したい・・・ご家族のために。会社や仲間にむけて
上司への報告・・・正確に伝えるのか? むしろ好感を得たいためか?
課題のレポート・・・独自の説をとなえるために。通説を擁護するために
-などを検討し、より具体的に、より単純化した『目的』を書き出してみましょう。

 <私の書く目的>は「新聞広告に使う。読者に「なるほど」と納得させたい」

 

②何を書くか(テーマ)を明確にします。

自分でも何を書くかわからないものを、他人が読んでわかるはずがありません。
テーマは単純化、1つにそぎ落とします。
私は、よく<タマネギの芯を出すまで、まわりを剥いでいく>と言います。

 <私のテーマ>は、「楽器ヴィオラが奏でる音の特性」を説明します。

 

③誰に対して書くか(対象)。

読んでもらう人を明確に設定します。例えば、あなたの周辺にいる人では誰?…同僚のAさん?  ヨガ仲間のB夫人?  学校のC先生? 頭にその方の顔を描き、敬意を持って、直接お会いして話すよ うに書きましょう。目上の人なら自然に敬語が出ます。お知り合いなら親しみの言葉になります。1人の人にわかるように書けば、多くの人にもわかるものです。

 !!ご注意ください!!  どんな場合にも、乱暴な言い方、傷つけそうな表現はさけましょう。

 <私の対象>は、クラシックコンサートにしばしば出かけるお隣のご主人Dさん。
  年齢55才、中堅商社の経理課長さん。 家にピアノはあるが、彼は弾けません。

 

④総文字数を想定しておきましょう。

あまりにも長く、だらだら書くのはいけません。と言って、短すぎて伝えたいことが不十分でも困ります。書き終わってから調整してもよいのですが、書く前にこのぐらいの字数にしようと、想定しておくと上手になります。ほどよい長さの決め方としては、同じ目的で、他人が書いた文章の字数を数えます。字数を調べると、長さのめどが立ちます。

<私の場合>は、新聞広告ですので、イラストレーション、図表などのスペースを予定し、1500字としました。これは400字詰め原稿用紙で3枚と15行程度です。この字数程度に書き上げないと、図表、タイトルなどが収まりません。

 

■第2章 【収集】

 

⑤資料を集める。

自分の頭の中にある材料だけでは、視野が狭く、片寄り、他者に納得を得られないことが多いのです。読者は、あなたより深い知識、経験を持っているかもしれません。「文章が書けない・・・」と言う人のほとんどが、書くための材料を持っていないため。書くネタがないのに書けるはずがないのです。
書くプロ、例えば新聞記者は、材料を求めて取材に走り回ります。最近の作家は、アシスタントを使い資料収集を行います。自分は書くタネを持っていないと自覚して、時間とお金が許す限り材料を集めましょう。集めるときは、テーマに近ければすべて集めてしまう、という気持ちで探します。理解できる範囲だけ、考えに近いものだけではいけません。

⑥インターネットを使います。

インターネットは、材料集めにはとても便利なツールです。あらゆる情報が検索できると言って間違いないでしょう。

<私の場合>検索サイトを2つ立ち上げておきます。Google ChromeとSafari(Macを使っています)。
検索のキーワードを「ヴィオラ」とし、提示される項目を、ほぼすべて目を通します。

私は、最初にあげたように音楽に関する知識は全くありません。

ですから、内容が正しいかどうかわかりませんが、テーマに関わりがありそうと思う記事は、すべてプリントします。
検索結果ページの5〜6ぐらいまで来ると、テーマからそれた記事が多くなり、そこで終わります。

そして、別の検索ワードを入れます。「ヴィオラの構造」「ヴィオラの原理」「ヴィオラの音」など繰り返し検索します。
同じようにプリントします。

記事の中で、気になる「言葉」や「見ておきたい項目」を見つけた場合、その部分をコピーして、もう一方の立ち上げてある
検索サイトにペーストして、調べます。同時に、2つのサイトを見比べながら、かなりの枚数となるプリントを出します。

 

⑦図書館・書店で探します。(文献から集める)
 
「インターネット検索の資料だけでは、なぜ、ダメなのでしょうか?」

●インターネットには、信頼性の低い記事や記載が多くあります。
どこかに書かれていた記事を、そのまま転載していることが多く、出典や著者名、裏付けなど記事の内容責任が記載されていません。間違っていることも多いのです。

以前に、こんなことがありました。楽器バスーン(ファゴット)の原稿を書く際、同じように検索をし、資料を集めました。
この時、バスーンの有名な専業メーカーのホームページに『ベートーヴェンはバスーンの音色を「天からの声」と表現し』とありました。記事に使えそうだなと思い「ベートーヴェン」「バスーン」「天の声」などのキーワードで検索すると、バスーン奏者のコンサート案内や有名音楽協会などの記事にも記載されていました。ただ、ベートーヴェンはどんな時に言ったか、信憑性はあるのか、その裏取りと詳しい状況を知りたく、先のバスーン専業メーカーならわかるだろうと思い、問い合わせてみました。数日後に返事が来ました。
「この記事は、Web制作会社のライターが書いたもので、当社ではわからない、ライターに問い合わせています」とのことで、以後連絡はありません。
図書館で関連文献を多数調べましたが、それに関する記事はなく、裏取りができず、使用しませんでした。
原稿を発表後、読者から「その記事は正しいでしょうか、詳しく教えてください」と問い合わせが来る場合があります。
正しく答えられるよう、出典や情報ソースがたどれるようにしておきましょう。

●文献からも調べてみます。
 本の場合、著者、出版社、引用などがわかります。
 記載事項の不明は出版社に、出版社を通じて著者に問い合わせることができます。

<図書館を使いこなしましょう>
 図書館は、広い分野から本を集め、膨大な蔵書があります。
 私は、大阪にいますので、『大阪市立中央図書館』『大阪府立図書館』を使います。

―(例)「大阪市立中央図書館」で、本を探しましょう。―

●図書館に出かける前に、パソコンで図書館のホームページを検索します。
・「蔵書検索」を呼び出します。
キーワード「ヴィオラ」(私の場合)では、演奏指導の本はありますが、テーマに該当しそうな本は見当たりません。
そこでキーワードを変え、「ヴァイオリン構造」「楽器の仕組み」「楽器の音色」などで検索しました。
その結果、20冊程度の候補の本が見つかりました。

・図書名と、その本がどの書架に置かれているかがわかる「紹介ページ」だけをプリントします。
大阪市立中央図書館の「紹介ページ」には、1ページ目に「書籍名」「所蔵館」「置かれている場所・ラベルの番号」が表示されています。

・書架の位置は、地下1階か、1階か、2階か、書庫資料(書庫から出してもらう)かを確認します。

・次に、20冊分の「紹介プリント」を、地下1階、1階、2階単位に分け、クリップで留めておきます。
図書館に行ったとき、効率よく本をピックアップできるようにするためです。

●図書館に行きます。

・図書館内での動きを紹介します。
 1階に「書庫資料の受付」があります。書庫資料から出してもらうのには、20分程度かかります。
 まず先に「書庫から出してもらう」手配をしておきます。

・次に、同じ1階フロアの書架にある本を探します。「ラベル番号」が書架に表示されています。
 それを頼りに探すと、簡単に見つかるでしょう。
 借し出し中や、現在誰かが持ち出していることで見つからない場合があります。
 とりあえず見つけたもの、またその周辺で調べてみたい本があれば、すべて取り出し、読書用テーブルに置きます。

・一気にチェックします。
 目次を見て、該当しそうなところを開き、ざっと読み、使えそうなら付箋をはさみます。
 この段階で、内容を深く読み込む必要はありません。どんどん、同じ作業を他の本にも繰り返します。

・書庫資料から出してもらう本も、その頃にはカウンターに出されています。
 借りてきて、同じように目を通します。

・1階ですべて終わらせて、不要分は返します。そして2階に。
 同じようにして終わらせ、他の階に。各階で終わらせます。必要本だけ持って歩けば重くありません。

・各本は、読み込まず、使えそうに感じたらよいのです。使えそうなら、借りて帰って、ゆっくり読みます。

図書館で探すことをおすすめするのは、関係する本を多く見つけられることのほか、予定した本の棚に、想定外の関連する本が見つかることがあるからです。

・随所に必要事項が出てくるような本は、借ります。
 逆に、ごく一部に記載されているだけなら、図書館内にあるコピー機でコピーを取ります。
 図表を作成するために使うものなら拡大カラーコピーにしておく方がよいでしょう。すべて、表紙も一緒に取っておきましょう。
 後日、他のページを見たいとか、出版社に問合せたいときに必要です。

・ネット検索で得た資料と同じような記事でも、捨てないでおきましょう。
 それぞれ書き方や見方が異なっていたりして、より詳しく知ることができます。記事の信憑性を確認するにも役立ちます。

・持ち帰った本は、ざっと、全体を見て、必要な部分だけコピーを取ります。
 コピーを取ると、保管できます。(借りた本には、絶対書き込みをしてはいけません。付箋もあとで必ずはずしましょう)

・記事の信憑性を確かなものにするためには、本が一番ですが、数十年前に出版された本もあり、新しい学説が発表されている場合もあるので、1冊だけにとらわれず、他の本などとの整合も注意しましょう。

 <私の場合>本から得た主な情報
  ・ヴィオラ、ヴァイオリンの学究的なしくみ
  ・発音の原理、音の拡大の原理       
  ・弓の役割       
  ・各種原理の図やデータ表        
    ・・・など、ネット検索では弱かった部分が十分に出てきました。

<書店で購入>

 図書館で調べた結果、楽器の歴史や演奏、取り扱い方法などはたくさん出てきました。
 しかし音の特性は「音響分野」に関わることもあり、ぴったりくるものがありません。
 そこで、Google やYahooで「音響分野」の書籍を探します。出版されていました。
 図書館で見つからないものや、以後継続的に利用したいものなら購入します。
 図書館の本であまりに古いものは最新版が出版されていないかも確認できます。

以上が、書くための素材収集です。この作業がほぼ終わる頃には、テーマについてのおぼろげなポイントがわかってきます。

⑧取材をします。

<自分自身への取材>
 意外に忘れていることですが、あなたが挙げたテーマに、あなた自身がどう思っているのか?どんな知識を持っているのか?
 第3者の目で、記者になったように問いかけて、ご自身の中から探り出すことをしてみましょう。
 過去の体験、学んだこと、聞いたことの中に、ヒントになること、参考になることが潜んでいる場合があります。
 この場合、徹底した客観視が必要です。

<専門家から取材>
 テーマに関係のありそうな専門家に取材することもあります。
 その場合は、取材先の専門分野を調べ、あなたの知りたい分野に最適なのか、十分検討し、取材先を選ぶ必要があります。
 取材先を決めると、丁重にお願いします。(有料の場合が多い)
 取材の際には、前もって質問事項を用意しておきます。聞きたいことを十分に練っておきましょう。質問は重要な行為です。
 取材を受ける人が、話しやすいよう、身近な話から入り、次第に専門分野に導入すると、話してもらいやすいでしょう。
 最後に、氏名や肩書き、所属などを必ず確かめ、発表してもよいかの確認も取っておきます。         

<私の場合>
私のヴィオラの記事は、音響工学の専門家とヴィオラ演奏の第一人者に監修として参加していただき、それぞれの分野から指導を受けています。楽器の博物館で話を聞いたり、楽器店のショールームで楽器を前に説明を受けたりすることもあります。

●取材は、人に対して行うだけではありません。
「場所」を書かねばならないときは、その場所やそれに近い場所に行き様子を確認。
「物」の場合もあります。現場、現物を観察して写真やスケッチで、現地での感想を記録しておきます。
ここでも、聞いてきたことは記録し保存、プリントしておきます。

   この資料集めが、全作業時間の7割ぐらいを占め、重要度も7割を担うと思います。
   書く技術より「よい資料を集められるか」が重要です。
   時間と予算が許す限り、資料集めに費やしましょう。

 

■第3章 【分類・組立】

 

⑨プリントを徹底的に読みます。

第2章の資料収集で、たくさんのプリントを得ることができました。

●読み込むポイント
 書かれていることを、忠実に読み取ることに集中しましょう。
 記事中の役立ちそうな部分にマーカーでアンダーラインを引きます。そして記事横に付箋を貼り、要点を書いておきます。
 読む際、あなたの思いや意見は一切入れません。書かれている内容を、偏見を加えず、大事な意見として扱いましょう。 

 <私の場合>        
 ■この作業でわかったこと        
 ・ヴィオラは、ヴァイオリンのやや大型のもので、5度低い音を出す。        
 ・構造は、ヴァイオリンと同じ。演奏法も同じ。        
 ・歴史もほぼ同じ、オーケストラでは合奏に用いられたが、後年に独奏楽器としても重宝される。        
 ・中音域を奏で、高音と低音を受け持つ。        
 ・ヴィオラの名曲。

 →ヴィオラの概要はわかりましたが、テーマである「楽器ヴィオラが奏でる音の原理」の原理の部分が、十分ではありません。
 ヴィオラは、ヴァイオリン属で構造はヴァイオリンと同じということなので、次に「ヴァイオリンの構造と音の特性」を
 キーワードに、再び検索してみます。こちらは、たくさんの項目が出てきました。
 さらに、ヴィオラ検索で得た資料から読み取った事柄などを検索し、再び多くの記事をプリントしました。

 集めた記事が、同じような内容であっても、それぞれを大事に扱い、マーカーを引きます。
 そこに、何が書かれているか付箋を貼ります。後々原稿を書くときに、各記事の正当性が確認できます。
 また説明の仕方や、使っている言葉の違いがあると助かる場合があります。
 図や写真は説明を補強する場合に便利ですので、プリントしておきましょう。
 また、再び記事の掲載サイトを調べたいときがありますので、プリント後もアドレスがわかるようにしておくと便利です。
(多くの場合、プリント紙面の下にアドレスが記載されています)

 <私の場合> 
 ■ヴァイオリンの記事検索でわかったこと         
 ・弦を弓でこすると弦が振動する 
 ・振動が、本体に伝わる         
 ・本体内の空気が振動、共鳴する
 ・空気の共鳴波は耳に入り音になる         
 ・材料         
 ・歴史          ・・・これらの資料が見つかりました。

 

⑩資料を分類、並び替えます。

資料はすでに何度も読んでいるはず。このころになると、テーマについてほぼ理解できます。
そして、どのように説明していくとわかりやすいかも、漠然と構成されてきました。

●資料に添付した付箋だけ見て、説明していく順番に並べ替えてみます。
この作業はとても重要です。
多くの資料から、1つの論旨を導いていく作業で、いろいろな組み合わせで説明する展開を考え、最もよい論旨展開を見つけましょう。

私のこの『資料集め→分類→論旨の発見』方法は、発想法で有名な川喜田 二郎氏の『KJ法※』に近いと思います。

※KJ法とは・・・多くの資料やデータを集めた後、またブレインストーミングにより、さまざまなアイディア出しを行った後、
集まった多くの資料データやアイディアを、秩序づけて分類し、新たな発想を生み出したり、論理的ストーリーを導く手法。

●並べ替えこそ、創造です。テーマ設定し、それに基づき、あなたの感覚で資料を集めてきました。
そして十分読み込み、あなたの意思でストーリーを描きながら、並べます。
テーマ設定時には、「相手の顔を思い描き、その方に説明するつもりで」と。
また資料集めの際は、「自分の意見を捨てて、テーマに関すると思われる物をすべて集めなさい」と書きました。
そして、徹底的に読みました。集まった資料は、すべて、識者や学者、専門家たちが述べたものばかりですね。
その高度な説を選んできたのは、あなたの感性なのです。そして読み込み、並べ替えたのは、あなたの思考の表れなのです。
たくさんのデータから導き出ているのは、あなたが創出した結果なのです。思いつきやこだわりの偏見ではありません。
いろいろな資料の中から生み出された、あなたの立派な意見だと思います。
KJ法の川喜田 二郎氏は、この作業を「発想法」と呼び、創造性の開発を助けるとしています。

⑪文章構成法を応用しましょう。
まず、これを言い→次にこれを→そしてこう説明すると、相手の頭によどみなく入っていく・・・これが上手な人を「話し上手な人」と呼びます。
文章も同じで、並び替えの際に、理解してもらいやすい展開のしくみがあります。

文章構成の順に、資料を分類し並べていくと、論理的な文章が書けることになります。
(以下の事柄は、文章作法や文章読本にも掲載されています。それらも参考にされるとよいでしょう)

●文章構成法のひとつとしてとして有名な「起承転結」で分類、まとめる方法があります。
「起」は導入、「承」展開させていく、「転」意外なことを入れてみる、そして「結」で締めくくる。
読者にわかりやすいところから入り、次第にむずかしいところに導入、新しい考え方を提示し、結論に導く。
4つのブロックで構成する方法です。よく使う方法なので、覚えておきましょう。

集めた資料の付箋をみながら、4つのグループに分類します。
”おおよそ”の感覚でよいでしょう。後で、組み替えてもよいのです。
まずは、大まかに4分類。どちらかな・・・と迷ったときは、えい!や!でどちらかに。
どこにも入らない場合は、5つ目のセクションに分類しておきます。

●「5W1H」も文章の構成法です。
新聞が事件や出来事を伝える文章はこの方式です。事実を正確に把握したり、伝える場合には欠かせません。
上記の「起承転結」とともに、よく使う構成法ですのでぜひ覚えておきましょう。

文章表記のほか、私は、取材前に
 Who(だれに・取材先)
 When(いつ・取材日)
 Where(どこで・取材場所)
 What(なにを・取材テーマ・項目)
 Why(なぜ・取材目的)
 How(どのように・取材手法)      …の項目で取材準備をします。

質問内容の設定や展開も、この構成で行うと、聞き漏れをなくします。

●『3段論法』も構成法のひとつです。
書き出し(序論)、主張(本論)、まとめ(結論)の3つに分ける方法。よく使われる構成です。
「書き出し(序論)」は、この文章の目的を述べます。「主張(本論)』では、その目的を具体的に説明します。
そして「まとめ(結論)」で、だからこの結論となる…とまとめます。

●『序破急(三幕構成)』という構成方法もあります。
演劇やドラマ、アニメ、CMの構成に使われています。「序」で事件を発生させ、これから始まるドラマに引き込みます。
「破」で盛り上げ伏線を張る。「急」で一気に解決。
「警察ドラマ」では殺人(序)、その後ドロドロの人間関係(破)、最後は急転直下犯人逮捕(急)・・・こんな構成です。

⑫文字量を配分します。
長文で書かねばならない・・・書けるかしら?と、字数に圧倒される場合があります。
原稿用紙(400字詰め)3枚といっても1,200字、10枚ともなれば、4,000字です。
その字数だけ見ると、長いな・・・と感じ、量に圧倒され、書く気力が萎えてしまいます。

<このように考えてみましょう>

●原稿用紙3枚を書く場合を想定しましょう。
文章の構成「起承転結」の4構成の場合、ざっと4分の1に分けると、起承転結それぞれ300字です。
さらに、この起承転結の各項目の中を、3項目で構成をすると100字(原稿用紙5行)、4項目で構成をすると75字(原稿用紙3行半程度)となります。
比較的挑みやすい字数に見えてきます。

分類した資料の中で、導入部に該当しそうなグループを「起」として使います。
このグループを3論旨(例えば3段論法のような構成)にしてみたり、4つの論旨展開に組立て、上記の文字数でまとめます。
資料収集に時間や労力をかけていますから、きっと資料は多い目にあるはず。短くまとめることになりそうです。
原稿用紙10枚なら「起・承・転・結」4構成の場合、起承転結それぞれ1,000字となります。
これを上記のように3項目で構成をすると、「起・承・転・結」各約340字(原稿用紙17行)。
各項目内を4構成すると、250字(原稿用紙13行)となります。

このように、書こうとする内容のタネ(資料)を多く持ち、文章の構成「起・承・転・結」で、一項目当たりの字数を割り出すと、意外に少なく、書きやすくなります。そして積み上げていくと、長い文章となっています。

5W1Hで構成するとどうでしょうか?
5W1Hでは、原稿用紙3枚(1,200字)を、6つの構成ですから各200字(原稿用紙10行)。原稿用紙10枚(4,000字)にしても、1項目670字ほど。
原稿用紙1枚半程度です。
まず「文章の構成」を設定しましょう。文字量に対する恐怖感は取り除かれます。

!!ご注意ください!!  各ブロックを、均等の字数で作ろうと無理をする必要はありません。目安としてください。
いずれかの部分が長くなり、ある部分が、何層にも繰り返されて描かれる場合もあります。
また文章の平坦性を避けるために、ブロックを入れ替える場合もあります。
基本として、以上のような構成法を用いると、書きやすくなり論旨の展開がスムーズになります。また読者も理解しやすいでしょう。

■第4章 【書く】

 

⑬書く順番を決めます。

●上流から下流に、水が流れるように
「起承転結」「5W1H」などの文章の構造、さらに分類した資料や説の展開順を決めました。
この論理の展開が読み手の頭に入って、論理が組み立てられていくのですが、文章としての「読みやすさ」から、各説の繋ぎ方をみておきましょう。

読みやすい文章は「川の水が、上流から下流に流れるように」と私は思っています。
1つの説からそれに導かれて次の説へ、そしてまた次へと、繋がりながら自然な展開で説が繋がり、論旨が説明されていくと、わかりやすく説得しやすくなります。そんな文章を「読みやすい」と思います。

読者は、文章を読むとき、1説1説、積み木を重ねていくように、書かれている説を頭に中に組み立てていきます。
積み木を積みやすいように、順番に渡していくことで、読者の頭に、あなたが伝えたい像が、組み立てられていきます。

 <私の場合>    
 「起承転結」の構成方法を借りて4分類。さらにその中を4つの項目で構成しました。

 当初から規定している字数は1,500字(400字詰め原稿用紙3枚と15行程度)。
 この字数を分類にあてはめ、各項目をどのぐらいで書かねばならないか、重要度に応じて感覚的に決めた目安です。
 その数字が下記に示したものです。この項目や字数は目標で、書き出すと変わっていくものです。
 ただ、最初に決めておかないと文章の全容をしっかり持った上で、書き進められないのです。  

 

<構成表> 

●ヴィオラの概要(楽器としての特性):全250字(400字詰め原稿用紙12.5行)

書いていく項目と順番 

字数の目安

ヴァイオリン属での特徴

20字×4行

ヴァイオリン属の倍音(音の性質)

20字×4行

各部の名称(図)

図を入れるため、本文は不要

大きさの違い

20字×4行

 

 

 

●音の発生から増幅:全550字(400字詰め原稿用紙1枚と8行)

書いていく項目と順番 

字数の目安

ヴィオラの構造

20字×6行

弓の役割

20字×8行

振動の伝わり

20字×7行

共鳴から音に、耳に

20字×7行

 

 

 

●音楽的役割:全500字(400字詰め原稿用紙1枚と5行)

書いていく項目と順番 

字数の目安

音域

20字×7行

各弦から出る音の特徴

20字×7行

ヴァイオリン属の音域比べ

20字×5行

演奏上の役割

20字×5行

 

 

 

●材料との関係:全150字(400字詰め原稿用紙4行)

書いていく項目と順番 

字数の目安

ホディ表

20字×2行

ホディ/側面

20字×2行

ネック(手の握り部分)

20字×2行

20字×2行

※その他の資料      
 ・歴史   ・・・前書きで書く      
 ・名曲   ・・・別の欄で書く     

一番長く書かなければならない項目(「音の発生から増幅」の項目)でも、20字×7行(140字)程度なのです。
この程度なら書けそうです。そしてこのくらいの字数で、各項目を書き続けていけば、構成表に示したストーリーが予定の字数で完成するでしょう。 (完成原稿は、タイトルも含め、1,619文字となりました。)

⑭ 1文あたりの字数。

<書きやすい、読みやすい長さ>
読みやすい文章にするということは、1文に1テーマ、文は極力シンプルに、短くすることです。

●国立国語研究所 草島 時介氏の研究(1952年)では・・・
読む場合は、縦組で25 字、横組では 20 字が読みやすいとしています。
読みやすい文章を指導するマニュアルにも、おおむねこの程度の字数をあげています。
私も、その通りだと思います。

●私の理論では・・・

・俳句の字数は5・7・5。17文字です。
「夏草や兵どもが夢の跡」 (なつくさや つわものどもが ゆめのあと)

・短歌の字数は5・7・5・7・7。31文字となります。
「久方の ひかりのどけき 春の日に しづ心なく 花のちるらむ」(ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しづごころなく はなのちるらん)

今の形に完成されたのは明治時代になってからでしょうが、古く平安時代から、この字数で読まれてきました。
学校でも習い、カルタ、百人一首で親しんでいます。日本人の体のサイズ、特に、読むときの息の量、肺の大きさに関わり、読み理解する脳とも深く関係しているのでしょう。読んで心地よく、覚えやすくもあります。

そんなことで、私は「1文あたり20〜30文字程度」がよいと思っています。
句点「。」は20〜30文字程度(原稿用紙1行〜1行半)に1つ。読点「、」は音の切れるところ、息を吸い直すところに入れたいのですが、「夏草や兵どもが夢の跡」の音の区切れに入れると「夏草や、兵どもが、夢の跡」となりかえって読みにくい。「夏草や、兵どもが夢の跡」としてもよいかな。それでも、読みづらいという人も出てくるでしょう。

「久方のひかりのどけき春の日にしづ心なく花のちるらむ」の場合どうでしょう。
音の切れ目にすべて入れると、せっかくのリズムをかえって壊しそうです。
「久方のひかりのどけき春の日に、しづ心なく花のちるらむ」この程度でしょうか。

この例文は歌で、短いので句読点の代わりに改行や字間を空けて、区切りを示しています。
私たちが書くものは長く、論理性が問われる文章ですから句読点を使います。
読点「、」は、音の切れ目とともに、論旨が転換するところには必ず入れます。
少々多くなって、読み飛ばされてしまうぐらいなら、わざと目を止めさせることをしてもよいでしょう。
大きく転換する場合は、いったん文章を切り「。」とします。そして新たな展開を始める方がよいでしょう。

「。」「、」の多い文章は悪くありません。特に書き始めは、ご自分のリズムでどんどん使っていき、テンポよく書きます。
読み直すときに、削っていくとよいのです。

<改行>
改行は多すぎると、文章がパラパラして読みにくく、論理を頭で組み立てていくことができにくいでしょう。
一方、改行の少ない文章は、文字が詰まりすぎて、これも読みにくいものです。
ひとかたまりの説が終わり、次の節に代わる部分を改行し、ひと呼吸入れるのがよいでしょう。
かならず改行しなければならないのは、「起承転結」や「序論・本論・結論」など、文意が大きく転換するところです。
また、文意を強調したいところを改行するときもあります。まずは、読者の読みやすさのために考えましょう。

⑮漢字、ひら仮名、送り仮名。

読みやすさを考えると、漢字は少ない方がよい。一般的に、「漢字3:仮名7」と言われています。
名詞は、とくに固有名詞は漢字です。読みにくいものにはルビを付けましょう。ひら仮名にしてもよいものは、ひら仮名に。

<こんな漢字はひら仮名に>
或る→ある 云う→いう  及び→および  下さい→ください  事→こと様々→さまざま  即ち→すなわち  
全て→すべて   従って→したがって  是非→ぜひ  為→ため  何より→なにより  先ず→まず  又→また  
迄→まで  善い→よい  様に→ように  分かる→わかる   ・・・などがあります。

<送り仮名>
ご自分で統一した法則を持っておくべきでしょう。おすすめは国語辞典での確認です。
国語辞典で(  )に入っている場合は、どちらでもよいので、私は送らないようにしています。
ただ習慣やニュアンスなどで送ることもあります。いずれにしても国語辞典を参考にしましょう。
(私の使っているのは「岩波 国語辞典」です)
※国語辞典はぜひ1冊手元に置きたいものです。さらに興味のある人には「記者ハンドブック新聞用字用語集」「朝日新聞の用語の手引」が役立ちます。

⑯単語の選び方。

文をつづるということは、膨大にある単語から、適切な単語を選び出し、法則に基づいて並べていくことです。
まずは、文法に忠実に、並べる必要があります。文法は、交通規則のようなものですから、これを乱すと、文章として成立しません。
文法に則しましょう。

できるだけ、日常に使っている単語を選びます。一般的には「標準語」がよいでしょう。
「業界用語」「仲間内言葉」「流行語」は、避けるべきです。
業界用の文書、仲間内の書類なら大いにその言葉を使ってもよいのですが、一般の人向けでは理解できない、通じないことがあります。その言葉が、すでに一般化していると思っても、十分注意しましょう。

・例えば「ぜんぜん」。これは副詞で<打ち消しの言い方や、後に否定的な意味の表現を伴う> とあり、『ぜんぜん読めない』という表現になる(『岩波 国語辞典』より)。ですから「ぜんぜんよかった」…というような表現はまちがいです。
・また「すっぴん」「イケメン」「ママチャリ」「百均」「ヤバイ」「キモい」…など、普段よく耳にしますし、テレビでも使われています。が、あまり美しい言葉ではありません。仲間内ではよいでしょうが、使わないようにしましょう。

・新型コロナウイルス感染症の蔓延にしたがって、さまざまな外国語が登場しました。
 中には、使わざるを得ない言葉もあるのでしょうが、一般庶民には、発声しにくく、理解できない言葉も多いようです。
「オーバーシュート」「パンデミック」(感染的爆発) 「ロックダウン」(都市封鎖) 「クラスター」(集団感染) 「ニューノーマル」(新しい常識・状況)…など、日本語を使うことはできないのでしょうか。
「ウィズコロナ」もわかったようでわからない、最たる言葉です。
これらの他に「シンギュラリティ」(技術的特異点) 「エビデンス」(根拠、証言) 「ダイバーシティー」(多様性)など、全くわかりません。
専門家同士ならよいのでしょうが、専門外の人に、ましてや庶民に理解できない言葉です。
これらの言葉は、真実を曖昧にして、わかったような気にさせてしまいます。正しく伝えるためには、よくわかる言葉を使いましょう。
文章は、いったん発表されると、どんな人が読むかわかりません。あなたより知識・経験のある人の目に触れることもあるでしょう。
できるだけ上品な言葉使いを心がけましょう。単語ひとつで、あなたの人となりがあらわれるのです。

■第5章 【確認】 

⑰推敲しましょう。

書き終わってからは読み直し、誤字・脱字はもちろん、文章の論旨は一貫しているか、説明不足や、無駄な部分がないか、などを十分に確認します。また、文章を依頼されている場合は、依頼内容にそっているかもチェックしましょう。
文法や誤字の確認に、私は、副次的に文章作成ソフトMicrosoft Wordの「校閲」機能を使います。
校正の他、文書の読みやすさのレベルに関する情報(1文当たりの文字数、漢字、ひらがなの使用率など)が表示されます。
ご自分の文書を、客観的に知る手助けになります。ぜひ使ってください。
検索ワード<文書の読みやすさとレベルの統計情報を取得する>で探してみてください。校正ソフトも無料・有料で出ています。

⑱校正してもらいましょう。

校正も、ぜひしておきましょう。文章を書いたあなた自身が確認するのは「推敲」です。校正は他の方に確認してもらうことを言います。本人以外の、第三者が見るわけで、論旨の展開、視点、字句の誤字、脱字など再確認ができます。
私は書き終えた後、かならず確認してもらっています。
自分ではわかったつもりになっている綸旨の展開に、わからないと言われ考え直すことがあります。誤字も見つかります。
必ずどなたかに、確認してもらいましょう。

⑲引用と著作権に注意しましょう。

論旨を展開する上で、専門文献から一部を「引用」する場合あります。
著作権法32条に「公表された著作物は、引用して利用することができる。」とあり、引用は許されています。
ただし、以下のような条件を満たさなければなりません、ご注意ください。

・著作物の出所を、明示しなければならない。
・著作者名を示さなければならない。
・引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること。あなたが展開した本文に対し、引用は明らかに「従」と認識されること。
・分量が明らかに少ない、文字の大きさが小さい、段落としで表示されている…など。
・カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること

そのほか-
(1)引用を独立してそれだけの作品として使用することはできない。
(2)著作者の死後70年以上経っている著作物は著作権に該当しない。
(3)情報(データ)そのものは著作物に該当しない。
(4)事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は該当しない。
  ただし、新聞社の記事は著作物になります。

上記(2)(3)(4)以外の場合は、出版元や著作権者に問い合わせ、引用の許可を取ります。
著作物の図表を使用する場合は「複製使用」「転載」にあたります。必ず許可を得てからにしてください。

⑳自分史を書く場合の注意

ご自分の思い出を書かれる方が多いようです。私の父、母、叔母も書き残しました。
その内容は・生家と父母 ・学校時代の先生、友達、出来事 ・友人との旅行 ・仕事上の話…ほぼこのような内容でした。
いくら親といえども、過去の振り返りを読んでも、何ら楽しくありません。
自分史の多くは、自分のことを文章にしているだけで、日記の長いものでしかないのです。
活字にして、人に読んでもらおうとすれば、その対象者にとって役に立つことが必要でしょう。
時間を割いて、長い文章に向かってもらうのですから、自慢話や自己の押しつけだけでは、読者に失礼です。

<では、どうするか?>
この文章作法で述べてきたことを、取り入れていただくと、かなり深い自分史が書けると思います。
・自分の歩みのどの部分を書きたいか…テーマを定めます
・誰に読んでもらうのか…読者を定めます。お子さまでしょうか、仕事仲間でしょうか。
 お子さま向けと仕事仲間では、自ずと言葉に使い方、内容が変わりますね。
・その方に何を伝えたいのか…よく考えましょう。
・テーマ周辺の資料を集めてみましょう。
 あなたの子供時代、どんな社会でどんな出来事があったのか。
 伝えたいことの周辺情報など、インターネットや本から、また当時の新聞から集めてみます。
・集まった資料や、あなたの経験を分解して組み立て直します。
 一人勝手な思いではない、データに裏付けられた、その時代に共通の記憶や事実が、導き出されるかも知れません。
・対象である読者とあなたの共通点、一種の架け橋を考えながら文章を構成します。
・読者の顔を思い描いて、話すように書いてください。

※上手になるコツ・手紙を書こう。

メールで済ませられる時代ですが、文章を上手になろうとするなら、便せんやA4用紙1〜2枚程度のきちんとした手紙を書くことです。パソコン仕上げでもかまいません。
手紙なら、書く対象者が決まっています。あなたと共通の話題があります。
特に、目上の方に書きます。目上の方なら、へりくだった視線が生まれます。

手紙の場合も、まず構成を考えます。「起承転結」のように、4構成を使ってください。
 まず「季節の挨拶、相手の健康を思いやる」文から入ります (起)
 次に「私の近況」(承)。
 そして「手紙を出す目的」をていねいに話します(転)。
 最後は、相手への心くばりを込めた結びの文となります(結)。

この中に、あなたと相手との思い出や、共通の話題を、盛り込むようにします。
あなたの近況報告や、お願いだけで埋めないよう、相手への文章5〜6割、あなた自身を述べる文章4〜5割ぐらいに。
「こいつは自分のことしか言ってこない!」と思われないようにします。
またパソコン仕上げの場合では、最後に自筆の署名をします。
このように、手紙であっても、注意して書くとこを続けていると、きっと、いろんな種類の文章も上手になると思います。




■第6章 【私の書いたものからみてみましょう】


(1)タイトル

力強く深い音色の ヴィオラ独奏。
合奏では 美しいハーモニーをつくります。

 

≪意図≫
・本文を書き終わってから、タイトルを付けます。
ヴィオラは『独奏』にも『合奏』にも特性が生きる楽器。それぞれを言います。
・この文章全体に何が書かれているか、一目でわかるよう『ヴィオラ』を入れ込みました。

≪工夫≫
→タイトルは内容を、一瞬にして予測できなければなりません。
ですから短い方がよいのです。この場合の字数は長いタイプです。それでも、1行目15字、2行目19字です。
→ひら仮名、カタカナ、漢字のバランスに工夫しました。ひら仮名が続きすぎると読みにくい。漢字が続くと堅くなる。1行目を体言止めにして、歯切れのよいリズムを持たせました

(2)前書き

弓で弦をふるわせ演奏する擦弦楽器は古くからあり、ヴィオラは16世紀には存在していました。18世紀に、ヴァイオリン属はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス※の4種類に集約されたようです。同世紀後半ハイドンやモーツァルトの弦楽四重奏曲ではヴィオラが重要なパートを受け持ちました。音域は、アルトやテノールの声域に近く、温かみや悲しさを感じさせると言われています。ヴァイオリンはきちんと規格寸法が定まっていますが、ヴィオラには厳密な規定がなく、ボディの全長が38cmくらいから47cm程度のものまであります。これは中世の頃、中音域内での高低を大きさの異なるヴィオラで実現していた名残と思われます。
※コントラバスに関しては諸説あり

≪意図≫

・総論になることを、取り上げました。

≪工夫≫

→ヴィオラはヴァイオリンのように、弓で弦を弾く楽器であることは、音楽好きの読者なら、ご承知でしょう。しかも、すぐ横にイラストを付けるから、どんな楽器かはわかります。そこで、文頭から「弓で弦をふるわせ演奏する擦弦楽器は古くからあり」と説明なしに入りました。

→『擦弦楽器』・・・「擦(こする)」の意味は、前の文に「弓で弦をふるわせ」で説明しています。ヴィオラは弦をこする楽器の分類だとわかります。弦楽器は知られていますが「擦弦楽器(さつげんがっき)」までは、ご存じない方も多い、ここで、少し踏み込んでいただくようにしました。

→18世紀に、ヴァイオリン属はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス※の4種類に集約されたようです。

→ヴァイオリン、チェロ、コントラバスを出したのは、これらの楽器と同じ属であること。おおむね構造や音質が同じである・・・と、以下の長い本文の最初に示しておきます。

→読者は、ヴァイオリンのような、よく知る楽器と比べながら、ヴィオラのイメージを深めていく仕掛けでもあります。

→『集約されたようです。』としたのは、多くの資料に見られますが、不確かさがあるため推測としました。

推測を多用することは避けましょう。多く使うと文章全体が、推測して書かれたものとされてしまいます。

→「ハイドンやモーツァルトの弦楽四重奏曲ではヴィオラが重要なパートを受け持ちました「
有名な作曲家に重宝されていると書くことで、ヴィオラの地位をあげ、ヴァイオリン、チェロなどと同じ重要な楽器であることを示します。

→「ヴァイオリンはきちんと規格寸法が定まっていますが、ヴィオラには厳密な規定がなく、ボディの全長が38cmくらいから47cm程度のものまであります」
ヴァイオリンとの外見上で、最も大きな違いをしまします。まずは、わかりやすい外見上から入りました。

この<前書き>は一見長く見えます(306文字、原稿用紙2/3枚)が、短い文が連続しているだけなのです。
・大きく2つに分かれます。「歴史」(139字/2文)と「形」(110字/1文)と、短く「音域」(41字/1文)。
 さらに「歴史」の中も2つに分かれます。「楽器として」(94字)と「演奏として」(45字)。
「形」の中も2つに分かれます。「ヴァイオリンとの比較」(66字/1文)と「背景」(44字/1文)と構成されています。(添え書き※16字)

(3)本文

ヴィオラはヴァイオリンと同じ構造ですが、大きさはヴァイオリンより少し大きく、チェロより小さいサイズです。ということで音域はヴァイオリンより5度低く、チェロより1オクターヴ高くなっています。また倍音を豊富に含み、情感豊かな響きとなっています。倍音とは、例えばドを弾くと、ド音(基音)の周波数の、整数倍で現れる周波数の音のことで、これが耳に聞こえない程度に同時に鳴り、音を豊かにします。
弦の振動がボディに伝わり共鳴。音が生まれる。

音の発生は、弓に張られた毛で弦をこすり、振動させることから始まります。毛(馬の尻尾の毛)に松ヤニを塗り、弓と弦との接触に「摩擦」と「潤滑」を与え、弓を動かし弦を引く動作が繰り返されることで、弦に振動を生みます(図2)。
振動は、駒を通じてボディに伝わります。駒の片足は、バスバー(表板裏にC線にそって張られた木)の上にあり、駒の足から振動を表板全体に拡散させます。また、もう片足の下には魂柱が立って、裏板に振動を伝えます(図3)。
ボディは共鳴箱のような構造をもち、表板と裏板に様々な振動波を生みます。これがボディ全体、そして穴の開いたf字孔から放たれ、周囲の空気を震わせ、私たちの耳に届きます。
張られている弦は振動数の高い方から、A線、D線、G線、さらに5度低いC線となります。音質はA線では華やかでヴィオラ特有の甘美さを、D線は温かく、G線は太く豊か。C線は暗く太い音質で、もの悲しくうつろう表現によく使われます。
和音を補い、リズムを刻む弦楽器全体の調整役。

ヴィオラはオーケストラや弦楽合奏の中では、第1、第2ヴァイオリンと、チェロ、コントラバスの、ちょうど真ん中の音域を受け持ちます。ヴァイオリンと低音楽器の間をつなぎ、弦楽器全体の響きを充実させる大変重要な役目をします。また、独奏楽器としても、17世紀以降優れた作品が生まれ、活躍の舞台を広げています。
ヴィオラの楽譜は「ハ音記号」が一般的(高音が出てくる部分はト音記号が使われます)。「C(ハ=ド)」の位置が中央の凹んだころにあります。ヴァイオリンで使うト音記号、チェロで使うへ音記号と比べてみましょう(図4)。

落ち着いた音を奏でるには材質も影響します。表板には、音楽特性がよいマツ科トウヒ属のスプルースが使われますが、モミと表示される場合もあります。裏板と側板、ネックはメイプル(カエデ)、表面にはニスが施され、美しく仕上げます。糸巻きや指板、顎当ては紫檀や黒檀。弦は、昔はガット(羊の腸)を使っていましたが、現在は音高の安定性や音色への要求からナイロンの芯線に銀やアルミの細線を巻いたものなどが一般的。弓はフェルナンブーコの木が使われていますが、カーボンファイバーの弓も使われるなど、近年はボディや各部を頑強にし、大きな音が奏でられるよう工夫されています。

≪意図≫
・まず、読者がよく知っていることから、話をスタートさせると、読者の実感から始まり、イメージを広げやすくなります。
・読む人が、理解しやすい順番を想定して、言葉をつないでいくようにします。

≪工夫≫

①そこで、このように書きました。
「ヴィオラはヴァイオリンと同じ構造ですが、大きさはヴァイオリンより少し大きく、チェロより小さいサイズです。ということで音域はヴァイオリンより5度低く、チェロより1オクターヴ高くなっています。」

・読者は、ヴィオラはヴァイオリンよりサイズが大きい。それと音が違う。…この認識はあるでしょう。
・「同じ構造です」…構造は同じで、サイズが大きいと音は低くなります。以下に展開するため、ここで「音域」を出して、以下につなぎます。


②「音域」が出たので、ヴィオラの音の性質へ進み、テーマの「音の原理や科学」に、誘導していきます。
「また倍音を豊富に含み、情感豊かな響きとなっています。倍音とは、例えばドを弾くと、ド音(基音)の周波数の、整数倍で現れる周波数の音のことで、これが耳に聞こえない程度に同時に鳴り、音を豊かにします。」

・冒頭から、「情感豊かな響きとなっています」と決めつけ、読者が以後考えていく大枠を規定してしまいます。大枠ですから、「情感豊か」というような抽象的な言葉としています。

時に“決めつけ”も必要です。裏付けがあること、絶対正しいことに限ります。また多用はいけません。

・「倍音とは、例えば」耳慣れない言葉が出てきましたので、説明文を加えました。

・「これが音を豊かにします。」
倍音の効果を説明しておきます。ひとつの事象を出したとき、それがどんな結果を及すかを、できるだけ近くで表示しておくと、読者は安心します。この時もまだ抽象的表現です。

・「周波数」という文字を出しました。以後、抽象的表現を廃し科学的説明の、布石となっています。


③ヴィオラの音の性質や、「周波数」という言葉が出て、音の本質に入ってきました。まず、振動が生まれるシーンを書きます。

音の発生は、弓に張られた毛で弦をこすり、振動させることから始まります。毛(馬の尻尾の毛)に松ヤニを塗り、弓と弦との接触に「摩擦」と「潤滑」を与え、弓を動かし弦を引く動作が繰り返されることで、弦に振動を生みます(図2)。

・「毛で弦をこすり、振動させることから始まります。」
前書きの1行目に「弓で弦をふるわせ演奏する擦弦楽器」と書きました。使う言葉は変えていますが、同じことを言っています、この楽器に原理の部分ですから。いよいよ具体的に説明していきます。

同じことを言う場合、同じ単語を使うのはさけましょう、異なる単語で言い換えます。

◎動きを文字で表現するのはむずかしい。ここでは、イラストで説明します。
動きを文字で表現しなければならないときは、手を動かしてみて動作を思い描き、その動作を文字にします。


④ “振動が生まれ発展する”  順番どおりに、乱さないように書くのがコツです。

振動は、駒を通じてボディに伝わります。駒の片足は、バスバー(表板裏にC線にそって張られた木)の上にあり、駒の足から振動を表板全体に拡散させます。また、もう片足の下には魂柱が立って、裏板に振動を伝えます(図3)。
ボディは共鳴箱のような構造をもち、表板と裏板に様々な振動波を生みます。これがボディ全体、そして穴の開いたf字孔から放たれ、周囲の空気を震わせ、私たちの耳に届きます。


・「弦の振動」→「駒」→「ボディ」→「表板」…「魂柱」→「裏板」…「共鳴箱」→「ボディ・f字穴」→「周囲の空気」→「耳」
 このように振動が伝わり、共鳴して、空気を振動させ耳に入る・・・この流れを、乱さずに書くとわかりやすい。
 前後入れ替わったりすると、わかりにくくなります。

・楽器の命である音の発生を、少しばかり専門用語も交え説明、図で補強します。

・一見、この段落は長いように見えますが「裏板に振動を伝えます(図3)。ボディは共鳴箱のような構造をもち、」の「伝えます。」と「ボディは」の間で改行しています。前の101字は、振動が表板・裏板に伝わる工程を。後ろ81文字は、空気の振動を言っています。
400字詰め原稿用紙に当てはめると、前半は約5行。後半は4行程度です。しかも、途中に句点(。)、読点(、)、改行が入って、理解しやすくしています。

⑤振動が発生し、音として聞こえる原理がわかれば、ヴィオラの音の特性に踏み込みます。

張られている弦は振動数の高い方から、A線、D線、G線、さらに5度低いC線となります。音質はA線では華やかでヴィオラ特有の甘美さを、D線は温かく、G線は太く豊か。C線は暗く太い音質で、もの悲しくうつろう表現によく使われます。

各線の取り付け位置を文章で説明するのは、文字数がかなり必要。そんなときは、図を添えます。
図や表での方がわかる場合は、そちらに任せましょう。


⑥ヴィオラの音の特性が演奏時に、どんな役割を果たすのか、効用を示します。

ヴィオラはオーケストラや弦楽合奏の中では、第1、第2ヴァイオリンと、チェロ、コントラバスの、ちょうど真ん中の音域を受け持ちます。ヴァイオリンと低音楽器の間をつなぎ、弦楽器全体の響きを充実させる大変重要な役目をします。また、独奏楽器としても、17世紀以降優れた作品が生まれ、活躍の舞台を広げています。

・上に記載した音域は、「ちょうど真ん中の音域を受け持ちます。」と他の楽器と比較して、明確にしておきます。

・ヴィオラの演奏上の特徴も示しておきます。「オーケストラや弦楽合奏」の場合、「独奏」の場合の双方書いておきます、重要なことですから。

・この「中音域」の要因は、本文の最初の行、「ヴィオラはヴァイオリンと同じ構造ですが、大きさはヴァイオリンより少し大きく、チェロより小さいサイズです。ということで音域はヴァイオリンより5度低く、チェロより1オクターヴ高くなっています。」にあります。


⑦音域にまつわる、読者の知らないことも紹介しましょう。

ヴィオラの楽譜は「ハ音記号」が一般的(高音が出てくる部分はト音記号が使われます)。「C(ハ=ド)」の位置が中央の凹んだころにあります。ヴァイオリンで使うト音記号、チェロで使うへ音記号と比べてみましょう(図4)。


・大方の人は、楽譜は<ト音記号>で書かれていると思われています。もう少し知っている人は<へ音記号>ですね。
 <ハ音記号>を知っている人は、音楽に詳しい方です。
 “ヴィオラの音域は中音域である”ことの紹介は、楽器のサイズからはじめる場合が多いのですが、使用する楽譜を見ていただき、説明することも加えました。

文章は “知らないことを知ってもらう”行為であり、「得をした気分」になっていただくことが大事です。

実は、筆者の私も、たくさんの資料を集め読み進めるうちに知ったことばかりです。もちろん「ハ音記号」も初めて知りました。

⑧楽器の材質も音質に関わります。

落ち着いた音を奏でるには材質も影響します。表板には、音楽特性がよいマツ科トウヒ属のスプルースが使われますが、モミと表示される場合もあります。裏板と側板、ネックはメイプル(カエデ)、表面にはニスが施され、美しく仕上げます。糸巻きや指板、顎当ては紫檀や黒檀。弦は、昔はガット(羊の腸)を使っていましたが、現在は音高の安定性や音色への要求からナイロンの芯線に銀やアルミの細線を巻いたものなどが一般的。弓はフェルナンブーコの木が使われていますが、カーボンファイバーの弓も使われるなど、近年はボディや各部を頑強にし、大きな音が奏でられるよう工夫されています。

 

・材質も集めた資料にたくさん記載され、ほぼ同じことが書かれていました。ただ、同じ材質でも呼び方が異なる場合があります。
 例えば「トウヒは、マツ科トウヒ属」ですので、「トウヒ」と書かれている場合や「モミ」と書いている資料もありました。
「トウヒ属のスプルース」が一般的でした。ただし「モミ」と表示される場合も多く、説明しておきました。
「カエデ(メイプル)」も同じ理由で併記しました。

・現在はほぼないのですが、一般には昔の材料が印象にあるような場合は、古くはこうだが今は・・・と解きほぐし表示します。
 「昔はガット(羊の腸)を使っていましたが、現在は音高の安定性や音色への要求からナイロンの芯線に銀やアルミの細線を巻いたものなどが
 一般的。」

・「弓はフェルナンブーコの木が使われていますが、・・・_」の「フェルナンブーコの木」ですが、ブラジルに生息する希少な木で、絶滅の恐れがあるとして、絶滅危惧種として、ワシントン条約で輸出取引が禁止されています。ただ、現在使われている楽器には使用されているので「カーボンファイバーの弓も使われるようになってきました。」という表現に留めました。
集めた資料にはそこまで出ていなかったのですが、この木の裏付けを取る際にわかりました。

資料、特にインターネット上の情報は正しいとは限りません。必ず真偽を確かめておきましょう。辞書・辞典でも確認します。
この文章の場合は、音響工学の専門家とヴィオラの高名な演奏家に監修を依頼しています

(4)案内

ヴィオラが活躍する名曲
○モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 作品364
○シューマン:「おとぎの絵本」ピアノとヴィオラのための4つの小品 作品113
○R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」 作品35

・これらの曲は、資料にたくさん紹介されていました。きっとどれもが素晴らしい曲なのでしょう。監修者の演奏家に選んでいただきました。

※総文字数

タイトル

   34文字

前書き

  306文字

本文

1,169文字

案内

  105文字

総文字数
(予定1,500文字)

1,614文字

114文字オーバーしましたが、ほぼ予定通りの字数だと言えるでしょう。
原稿は以下のようなレイアウトになり、新聞に掲載されました。